病院でお金が足りない…払えない時どうする?当日の対処法と使える制度

病院でお金が足りない…払えない時どうする?当日の対処法と使える制度 お金のコラム

会計の金額を見て、財布の中身と見比べて固まってしまう。病院でお金が足りない状況は、誰にでも起こります。急な受診や入院では、事前に費用を準備できないことのほうが普通です。

結論から言うと、その場で払えなくても診療は受けられますし、支払いの相談もできます。病院でお金が足りないときは、黙って帰るのではなく窓口に伝えることが出発点です。この記事では、会計窓口での伝え方、分割払いの相談先、2026年8月改正後の高額療養費制度、減免や貸付の制度まで、場面ごとに整理します。

  1. 病院でお金が足りないと診療を断られる?
    1. 支払えなくても診療は受けられる理由とは?
    2. 医師法第19条(応召義務)と支払いの関係
    3. 未払いを理由に退院を止められることはある?
  2. 会計窓口でお金が足りないと気づいたら最初にすること
    1. その場で会計担当に伝えるべき3つの情報
    2. 家族・知人に連絡して持ってきてもらう場合の注意点
    3. クレジットカード・電子マネーが使えるか確認する方法
  3. 病院の後払い・分割払いはどこに相談すればいい?
    1. 医事課・会計窓口と相談室の違いとは?
    2. 分割払いを相談するときに聞かれること
    3. 支払期日はどれくらい待ってもらえる?
  4. 医療ソーシャルワーカー(MSW)に相談すると何をしてくれる?
    1. 医療ソーシャルワーカーとは?
    2. 相談から制度利用までの流れ
    3. MSWがいない病院ではどこに相談する?
  5. 入院費・手術費が高額で払えないときの高額療養費制度とは?
    1. 2026年8月からの自己負担限度額はいくら?
    2. 新設された年間上限と多数回該当の仕組み
    3. 月をまたぐ入院で負担が増える理由とは?
  6. 窓口での支払いを限度額までに抑える方法
    1. マイナ保険証で受診すると限度額適用認定証は不要?
    2. 限度額適用認定証を申請する手順
    3. 認定証が間に合わなかったときの払い戻し手続き
  7. 収入が減って払えないときに使える公的制度
    1. 傷病手当金とは?受給条件と申請先
    2. 国民健康保険・協会けんぽの一部負担金減免制度とは?
    3. 無料低額診療事業を行う医療機関の探し方
  8. 借りる前に検討したい無利子・低利の貸付制度
    1. 生活福祉資金貸付制度(緊急小口資金)とは?
    2. 社会福祉協議会への申込みから入金までの期間
    3. 病院独自の支払い猶予・分割制度との併用
  9. それでも払えないときの生活保護(医療扶助)という選択肢
    1. 医療扶助とは?医療費が全額給付される仕組み
    2. 入院中に生活保護を申請する方法
    3. 申請をためらう人が誤解しやすい点
  10. カードローンや医療ローンで払うのは最終手段?
    1. 医療ローンとカードローンの違いとは?
    2. 借入で払う場合に確認すべき金利と返済総額
    3. 借入を選ぶ前に済ませておく制度申請
  11. 医療費を払わずに放置するとどうなる?
    1. 督促状・催告書が届いた後の流れ
    2. 診療報酬債権の時効と法的措置
    3. 請求書が届いてからでも相談できる?
  12. 支払った医療費を後から取り戻す方法
    1. 高額療養費の払い戻し申請の期限とは?
    2. 医療費控除で還付を受ける条件
    3. 民間の医療保険・共済からの給付金請求
  13. 病院でお金が足りないときによくある質問
    1. 手持ちが数千円しかないのに外来で1万円を請求されたらどうする?
    2. 救急搬送されて財布も保険証もないときはどうなる?
    3. 親の入院費を子どもが払えない場合はどうすればいい?
    4. 分割払いにすると病院から嫌がられる?
    5. 高額療養費と傷病手当金は同時に受けられる?
  14. まとめ|病院でお金が足りないときはまず窓口に相談する
    1. 参考文献

病院でお金が足りないと診療を断られる?

いちばん怖いのは「払えないなら診ません」と言われることではないでしょうか。実はその心配は、法律の面からも実務の面からも小さいものです。ここでは、支払いと診療の関係を根拠とあわせて確認します。

支払えなくても診療は受けられる理由とは?

医療機関は、支払い能力を理由に診療を断ることができません。正当な事由がない限り、医師には診療に応じる義務があります。手持ちがないことは、この「正当な事由」にあたらないと解釈されています。

つまり、お金が足りないという理由だけで診察や治療を拒否されることはありません。会計は診療の後に発生する債務であって、診療を受ける条件ではないのです。この前提を知っているだけで、窓口での気持ちがだいぶ楽になります。

医師法第19条(応召義務)と支払いの関係

根拠となるのが医師法第19条です。診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合、正当な事由がなければ拒んではならないと定めています。これを応召義務と呼びます。

厚生労働省の通知では、過去の未払いがあるだけでは正当な事由にならないとされています。ただし、支払い能力があるのに繰り返し支払いを拒むような悪質なケースは別です。誠実に相談する姿勢があれば、応召義務は患者を守る方向に働きます。

未払いを理由に退院を止められることはある?

入院費が払えないから退院させてもらえない、ということは制度上ありません。退院は医学的な判断で決まります。支払いの目処が立たないことと、退院の可否は切り離されています。

とはいえ、退院時に会計が発生するのは事実です。退院日が決まった時点で相談室に声をかけると、退院前に分割の取り決めや制度の申請が進みます。退院当日に初めて伝えるより、数日前のほうが選択肢は広がります。

会計窓口でお金が足りないと気づいたら最初にすること

今まさに会計に並んでいる、あるいは金額を見て動けなくなっている。そんなときに取る行動は3つに絞れます。順番に確認すれば、その場で解決できることは意外と多いものです。

その場で会計担当に伝えるべき3つの情報

会計担当に伝えるのは、事情の説明ではなく事実です。長い説明は不要で、次の3点を伝えれば担当者は動けます。

伝える情報 具体例
今日払える金額 「今日は3,000円まで払えます」
残りをいつ払えるか 「25日の給料日以降なら払えます」
希望する方法 「後日払いか分割で相談したいです」

「今日はいくら払えて、残りはいつ払えるか」の2点があれば話は前に進みます。窓口でそのまま使える言い方は次のとおりです。

すみません、今日は手持ちが足りません。
今日は3,000円まで払えます。
残りは25日以降に払えるので、後日払いか分割の相談をしたいです。
どの窓口に相談すればよいでしょうか。

家族・知人に連絡して持ってきてもらう場合の注意点

すぐに頼れる人がいるなら、連絡して持ってきてもらう方法もあります。病院によっては、家族が到着するまで待合で待つことを認めてくれます。会計担当に一言伝えておけば、催促されることもありません。

ただし、個人間のお金の貸し借りは後々の関係に影響します。返す日と返し方をその場で決めておくことが、トラブルを避ける最低限のルールです。数万円でもメモを残しておくと安心です。

クレジットカード・電子マネーが使えるか確認する方法

大きな病院の多くはクレジットカードに対応しています。個人のクリニックでも、電子マネーやQRコード決済を導入しているところが増えました。会計前に受付で「カードは使えますか」と聞くだけで確認できます。

ただし、カード払いは支払いを先送りしているにすぎません。翌月の引き落とし日までに資金を用意できるかを考えてから使う判断が必要です。分割払いやリボ払いにすると手数料がかかる点も忘れないでください。

病院の後払い・分割払いはどこに相談すればいい?

「分割にしてください」と言えば通るのか、誰に言えばいいのか。ここが曖昧なまま窓口に立つと、うまく伝えられません。相談先の違いと、実際に聞かれる内容をまとめます。

医事課・会計窓口と相談室の違いとは?

会計窓口は、その日の精算を担当する場所です。支払いの猶予や分割については、多くの病院で医事課や患者相談室が担当します。窓口で「支払いの相談をしたい」と伝えると、担当部署につないでもらえます。

役割を整理すると次のようになります。

窓口 主な役割
会計窓口 当日の精算、領収書の発行
医事課 支払い方法の相談、分割の取り決め
患者相談室(地域連携室) 制度案内、医療ソーシャルワーカーへの取り次ぎ

分割の相談は会計窓口ではなく医事課か相談室が担当と覚えておくと、話が早く進みます。

分割払いを相談するときに聞かれること

分割の相談では、病院側もいくつか確認事項があります。あらかじめ答えを用意しておけば、その場で取り決めまで進めます。聞かれるのは主に次の項目です。

  • 世帯の収入状況と加入している健康保険の種類
  • 今日払える金額と、毎月払える金額
  • 支払い完了までの希望期間
  • 連絡先と緊急連絡先

誓約書や分納計画書への記入を求められることもあります。これは病院が未収金を管理するための書類で、書いたからといって不利になるものではありません。

支払期日はどれくらい待ってもらえる?

外来の会計は当日払いが原則です。ただ、事情を伝えれば数日から1か月程度の猶予に応じる病院は少なくありません。入院費は退院時の一括払いが基本ですが、こちらも分割の相談が可能です。

期間は病院の規定によって異なります。3か月から1年程度の分割を認めている病院もあれば、半年を上限にしているところもあります。目安を聞いたうえで、無理のない計画を出すことが大切です。

医療ソーシャルワーカー(MSW)に相談すると何をしてくれる?

「制度を使えば楽になるらしいけれど、何をどう申請すればいいのか分からない」。この段階で頼れるのが医療ソーシャルワーカーです。相談すると何が起きるのかを具体的に説明します。

医療ソーシャルワーカーとは?

医療ソーシャルワーカー(MSW)は、病院で患者や家族の経済的・社会的な困りごとを支援する専門職です。多くは社会福祉士の資格を持ち、患者相談室や地域連携室に所属しています。相談は無料です。

厚生労働省の業務指針でも、経済的問題の解決や調整援助がMSWの役割として明記されています。医療費の支払いに困ったとき、MSWへの相談は病院が用意している正式な窓口です。遠慮する必要はありません。

相談から制度利用までの流れ

まず看護師か受付に「支払いのことで相談したい」と伝えます。MSWとの面談が設定され、収入・世帯・保険の状況を聞き取ってもらえます。ここで使える制度の候補が絞られます。

その後の流れは次のとおりです。

  • 高額療養費や限度額適用認定証の案内
  • 減免制度や貸付制度の申請先の紹介
  • 必要に応じて市区町村や社会福祉協議会への連絡
  • 病院内の分割払いの調整

申請書の書き方まで一緒に確認してくれることが多く、役所に1人で行くより手続きが進みます。

MSWがいない病院ではどこに相談する?

小規模なクリニックや診療所には、MSWがいないことがあります。その場合は、市区町村の福祉担当窓口か、加入している健康保険の窓口が相談先になります。国民健康保険なら役所の保険年金課です。

もう1つの相談先が、各市区町村の社会福祉協議会です。貸付制度の申請窓口も兼ねているため、支払いに関する相談をまとめて進められます。電話での問い合わせにも対応しています。

入院費・手術費が高額で払えないときの高額療養費制度とは?

入院や手術で数十万円の請求を受けたとき、全額を自分で負担するわけではありません。高額療養費制度が1か月の自己負担に上限を設けています。2026年8月から上限額が変わったので、その数値で確認します。

2026年8月からの自己負担限度額はいくら?

高額療養費制度は、1か月(1日から月末)の医療費の自己負担が上限を超えた場合、超えた分が払い戻される仕組みです。上限額は年齢と所得で決まります。2026年8月診療分から月額上限が引き上げられました。

70歳未満の主な区分は次のとおりです。

所得区分(年収の目安) 2026年7月まで 2026年8月から
約370万〜770万円 80,100円+(医療費−267,000円)×1% 85,800円+(医療費−286,000円)×1%
約370万円未満 57,600円 60,000円
住民税非課税世帯 35,400円 35,400円(据え置き)

年収約770万円以上の区分も引き上げられています。自分の区分は厚生労働省の「高額療養費制度の見直しについて」で確認してください。医療費100万円の入院でも、年収370万〜770万円なら自己負担は約9万3千円で済みます

新設された年間上限と多数回該当の仕組み

今回の改正で、年間の上限が新しく設けられました。月ごとの上限に届かない月が続いても、1年間の自己負担の合計が区分ごとの上限に達すれば、それ以降の窓口負担は発生しません。年収約370万〜770万円の区分では年53万円が上限です。

従来からある多数回該当は据え置かれました。直近12か月で3回以上上限に達すると、4回目からは上限が下がります。年収370万〜770万円なら44,400円です。長期の治療が続く人ほど、この2つの仕組みが効いてきます。

なお、2027年8月には所得区分が細分化される第2段階が予定されています。年収約510万〜650万円で98,100円+1%、約650万〜770万円で110,400円+1%になる見込みです。予定の段階なので、最新の公表資料を確認してください。

月をまたぐ入院で負担が増える理由とは?

高額療養費は「暦の月ごと」に計算されます。同じ10日間の入院でも、1か月に収まる場合と、月末から翌月にまたがる場合とでは負担が違います。またぐと、2か月分それぞれに上限が適用されるためです。

たとえば医療費60万円の入院が、月内なら上限は1回分です。月をまたぐと上限が2回分になり、負担が倍近くになることもあります。予定入院で日程を選べるなら、月初に入るほうが負担は軽くなります。

窓口での支払いを限度額までに抑える方法

高額療養費は後から払い戻される制度です。つまり一度は3割分を窓口で払わなければなりません。この立て替えを避ける方法が、マイナ保険証と限度額適用認定証です。

マイナ保険証で受診すると限度額適用認定証は不要?

マイナ保険証を使って受診し、窓口で限度額情報の提供に同意すると、支払いは自動的に上限額までになります。限度額適用認定証をあらかじめ申請する必要はありません。厚生労働省もこの運用を案内しています。

マイナ保険証があれば、事前手続きなしで窓口負担を上限額に抑えられます。カードリーダーの画面で「限度額情報を提供する」に同意するだけです。従来の認定証の申請を待つ時間がなくなります。

限度額適用認定証を申請する手順

マイナ保険証を使わない場合は、限度額適用認定証を保険者に申請します。申請先は加入している健康保険によって違います。

加入している保険 申請先
協会けんぽ 協会けんぽ都道府県支部
健康保険組合 勤務先の健康保険組合
国民健康保険 市区町村の国民健康保険窓口
後期高齢者医療 市区町村の担当窓口

申請から交付まで1週間前後かかるのが一般的です。入院が決まったら、すぐに申請するのが確実です。交付された認定証は、入院時に病院の窓口へ提示します。

認定証が間に合わなかったときの払い戻し手続き

救急や急な入院で認定証が間に合わなくても、損をするわけではありません。いったん3割分を払った後、高額療養費の支給申請をすれば超過分が戻ります。申請先は認定証と同じ保険者です。

払い戻しまでは診療月から3か月程度かかります。立て替えが難しい場合は、高額療養費の貸付制度を持つ保険者もあります。協会けんぽや国民健康保険では、支給見込み額の8割から9割を無利子で先に借りられる仕組みがあります。

収入が減って払えないときに使える公的制度

医療費が高いだけでなく、病気で働けず収入そのものが減っている。そんな状況では、負担を減らす制度と収入を補う制度の両方を知っておく必要があります。3つの制度を確認します。

傷病手当金とは?受給条件と申請先

傷病手当金は、病気やけがで仕事を休み、給与が出ないときに健康保険から支給される手当です。対象は協会けんぽや健康保険組合の被保険者で、国民健康保険には原則ありません。

支給の条件と内容は次のとおりです。

  • 業務外の病気やけがで働けない状態であること
  • 連続3日間の待期期間の後、4日目から支給
  • 支給額は標準報酬日額の3分の2
  • 支給期間は通算で最長1年6か月

入院中も申請でき、給与の約3分の2が入ってくるので支払い計画が立てやすくなります。申請書には医師の証明欄があるため、入院中に病院で記入を依頼しておくと手続きが早く進みます。

国民健康保険・協会けんぽの一部負担金減免制度とは?

一部負担金減免は、災害や失業などで生活が著しく困難になったとき、窓口負担の3割を減額・免除・猶予する制度です。国民健康保険法第44条に定められています。協会けんぽにも災害時などの減免制度があります。

対象になる条件は自治体ごとに異なります。収入が生活保護基準に近い水準まで下がったなどの要件が多く、申請には収入証明が必要です。制度の有無と条件は、国民健康保険なら市区町村の窓口で確認してください。

無料低額診療事業を行う医療機関の探し方

無料低額診療事業は、社会福祉法に基づいて、経済的に困っている人に無料または低額で診療を行う制度です。実施しているのは、済生会や民医連系の病院、一部の社会福祉法人の医療機関などです。

すべての病院が対象ではありません。都道府県や市区町村の福祉担当課に一覧があります。全国の民医連などの団体サイトでも実施医療機関を検索できます。利用には収入状況の申告と、病院ごとの審査があります。

借りる前に検討したい無利子・低利の貸付制度

分割にしても、制度を使っても、今月の支払いが足りない。そんなとき、カードローンの前に確認したいのが公的な貸付です。無利子で借りられる制度が用意されています。

生活福祉資金貸付制度(緊急小口資金)とは?

生活福祉資金貸付制度は、低所得世帯などを対象に、都道府県の社会福祉協議会が行う貸付です。医療費のような緊急かつ一時的な出費には、緊急小口資金が使えます。原則10万円以内で、無利子・保証人不要です。

利息がつかないため、返済総額が借りた金額を超えません。据置期間が2か月あり、返済は12か月以内が目安です。もう少し大きな額が必要なら、同じ制度の福祉資金(療養費)も検討できます。

社会福祉協議会への申込みから入金までの期間

申込みは市区町村の社会福祉協議会で行います。必要書類は本人確認書類、収入が分かるもの、医療費の請求書などです。窓口で相談すると、書類の確認と申込書の記入を案内してもらえます。

審査を経て入金まで、1週間から2週間程度かかることが一般的です。会計当日には間に合いません。そのため、病院に支払いの猶予を相談したうえで申し込む流れになります。

病院独自の支払い猶予・分割制度との併用

貸付と病院の分割は同時に使えます。たとえば入院費30万円のうち、緊急小口資金で10万円を払い、残り20万円を病院の分割払いにする形です。月々の負担がぐっと軽くなります。

MSWがいる病院なら、この組み合わせを一緒に設計してくれます。「どこから、いくら、いつ払うか」を一覧にしておくと、家計の見通しが立ちます。返済が重なる月がないかも確認しておきましょう。

それでも払えないときの生活保護(医療扶助)という選択肢

制度を使っても、貸付を受けても支払えない。収入も貯蓄も尽きている。その段階で残る選択肢が生活保護です。医療費については医療扶助という仕組みで対応されます。

医療扶助とは?医療費が全額給付される仕組み

医療扶助は生活保護の8つの扶助の1つで、医療費を現物給付する制度です。保護が決まると医療券が発行され、指定医療機関での診療費は原則として本人負担がなくなります。

生活保護の医療扶助では、保険診療の範囲内であれば窓口負担は0円です。入院費も同様です。ただし、差額ベッド代など保険外の費用は対象になりません。

入院中に生活保護を申請する方法

申請先は住んでいる地域の福祉事務所です。入院中で本人が動けない場合は、家族が代理で申請できます。MSWが福祉事務所と連絡を取り、申請の調整をしてくれることもあります。

申請後は、収入・資産・扶養できる親族の有無などの調査が行われます。決定までは原則14日以内です。申請日にさかのぼって保護が適用されるため、早く申請するほど医療費の負担が減ります。

申請をためらう人が誤解しやすい点

生活保護には申請をためらわせる誤解がいくつかあります。代表的なものを整理します。

よくある誤解 実際
家族に絶対に連絡がいく 扶養照会は状況によって省略される場合がある
持ち家があると受けられない 住んでいる家は原則保有が認められる
働いていると受けられない 収入が最低生活費を下回れば対象になる

病気で一時的に困っているだけなら、治って働ければ保護は終わります。医療費のために利用することは、制度が想定している使い方の1つです。

カードローンや医療ローンで払うのは最終手段?

「早く終わらせたい」という気持ちから、ローンに手が伸びることがあります。借入自体は悪ではありません。ただし、順番を間違えると返済が生活を圧迫します。借りる前の判断材料を整理します。

医療ローンとカードローンの違いとは?

医療ローンは、医療費の支払いに使途を限定した銀行や信販会社のローンです。金利は比較的低めですが、審査に数日かかります。カードローンは使途自由で、早ければ当日に借りられる反面、金利は高めです。

種類 金利の目安 借入までの期間
医療ローン 年3%〜8%前後 数日〜1週間
銀行カードローン 年2%〜15%前後 数日
消費者金融カードローン 年3%〜18%前後 最短当日

当日に必要な場合はカードローン、数日待てるなら医療ローンという使い分けになります。とはいえ、どちらも利息が発生する点は同じです。

借入で払う場合に確認すべき金利と返済総額

借りる前に、返済総額を計算してください。たとえば年利15%で20万円を12回払いにすると、利息は約1万6千円です。24回払いにすると約3万2千円まで増えます。

利息の分だけ、無利子の公的貸付より確実に損をします。月々の返済額が家計に収まるかも重要です。返済のために別の借入をする状態になると、抜け出すのが難しくなります。

借入を選ぶ前に済ませておく制度申請

借りるとしても、その前に済ませておく手続きがあります。順番は次のとおりです。

  • 病院への分割・猶予の相談
  • マイナ保険証または限度額適用認定証で窓口負担を上限額に抑える
  • 傷病手当金や減免制度の該当確認
  • 社会福祉協議会の貸付の相談

これらを済ませた後の不足分だけを借りると、借入額が最小になります。30万円を借りるつもりが、制度を使えば5万円で済んだという例は珍しくありません。

医療費を払わずに放置するとどうなる?

払えないから連絡しない。これがいちばん状況を悪くします。放置した場合に何が起きるかを知っておくと、早めに動く理由が分かります。時系列で説明します。

督促状・催告書が届いた後の流れ

支払期日を過ぎると、まず病院から電話や督促状が届きます。数回の督促に応じないと、催告書が送られます。この段階までは、病院との話し合いで解決できます。

督促状が届いた時点で連絡すれば、分割払いへの切り替えはまだ可能です。放置を続けると、債権回収会社への委託や弁護士名での通知に進みます。連絡が来たら、その日のうちに電話を1本入れてください。

診療報酬債権の時効と法的措置

病院が医療費を請求できる権利には時効があります。2020年の民法改正により、権利を行使できると知った時から5年です。ただし、時効を待つという発想は現実的ではありません。

病院は時効前に支払督促や訴訟を起こすことができます。裁判所から支払督促が届くと、放置すれば給与や預金の差押えに進むことがあります。ここまで来る前に相談するのが、負担の少ない道です。

請求書が届いてからでも相談できる?

退院してから請求書を見て、初めて金額に驚くこともあります。この段階からでも相談は可能です。病院の医事課に電話し、支払いの相談をしたいと伝えてください。

高額療養費の申請も、請求書が届いた後で間に合います。申請期限は診療月の翌月1日から2年です。退院後に落ち着いてから制度の申請をする人も多く、遅すぎるということはありません。

支払った医療費を後から取り戻す方法

なんとか払い終えた後にも、できることがあります。払いすぎた分を取り戻す手続きが3つあります。知らないと受け取れないお金なので、忘れずに確認してください。

高額療養費の払い戻し申請の期限とは?

窓口で3割を払った場合、上限を超えた分は申請すれば戻ります。加入している保険者によっては、申請なしで自動的に振り込まれるところもあります。健康保険組合や後期高齢者医療制度に多い運用です。

協会けんぽや国民健康保険では、原則として本人の申請が必要です。申請しなければ戻らないうえ、期限は2年で消滅します。領収書を保管し、診療月ごとに申請書を出しましょう。

医療費控除で還付を受ける条件

1年間に払った医療費が10万円を超えると、確定申告で医療費控除を受けられます。総所得金額が200万円未満なら、その5%を超えた分が対象です。家族分の医療費を合算できます。

控除の対象になるのは、高額療養費や保険金で補填された分を差し引いた金額です。確定申告をしていなければ、5年前の分までさかのぼって還付申告できます。通院の交通費も対象になるので、記録を残しておくと控除額が増えます。

民間の医療保険・共済からの給付金請求

民間の医療保険や共済に加入していれば、入院給付金や手術給付金が受け取れます。勤務先の団体保険や、クレジットカード付帯の保険が該当することもあります。加入を忘れているケースは意外と多いものです。

請求には診断書や入院証明書が必要です。証明書の発行に5,000円前後の費用がかかるため、複数の保険に請求する場合は、コピーで対応できるか保険会社に確認してください。請求期限は多くの場合3年です。

病院でお金が足りないときによくある質問

実際に窓口で困った人から出てくる質問を集めました。状況が近いものがあれば、そのまま当てはめてください。答えはすべて、ここまで説明した制度と窓口の運用に基づいています。

手持ちが数千円しかないのに外来で1万円を請求されたらどうする?

会計窓口で、今日払える金額と残りを払える日を伝えてください。数日から1か月程度の猶予に応じる病院は多くあります。その場で未収金の書類に記入し、後日振込か窓口払いにする流れです。

数千円の不足であれば、その場の相談だけで解決することがほとんどです。黙って帰ると、後から督促が届き、かえって気まずくなります。

救急搬送されて財布も保険証もないときはどうなる?

保険証がなくても、その日の診療は受けられます。会計は後日に回され、保険証を持参した時点で保険適用の精算になります。財布がなくても同じです。

後日、保険証かマイナ保険証を持って会計に行くだけで済みます。当日は氏名・生年月日・連絡先を伝えられれば十分です。入院になった場合は、家族が保険証を届ければ入院中に手続きが進みます。

親の入院費を子どもが払えない場合はどうすればいい?

まず、親自身が加入している保険で高額療養費や限度額適用認定証を使います。親が後期高齢者医療制度なら、上限は現役世代より低く設定されています。子どもが全額を負担する前提で考える必要はありません。

それでも足りない場合は、親名義で分割払いや貸付の相談をします。子どもには法律上、親の医療費を必ず払う義務があるわけではありません。親の年金や資産の範囲で支払う計画を、MSWと一緒に立ててください。

分割払いにすると病院から嫌がられる?

嫌がられることはありません。病院にとって、連絡が取れず未収金になるほうが困ります。分割でも計画どおりに払ってもらえるほうが、病院側にとっても望ましい結果です。

相談してくる患者は、病院から見れば誠実な患者です。医事課の担当者は、こうした相談を日常的に受けています。気後れせずに話してください。

高額療養費と傷病手当金は同時に受けられる?

同時に受けられます。高額療養費は医療費の負担を減らす制度で、傷病手当金は休業中の収入を補う制度です。目的が違うため、両方の条件を満たせばどちらも支給されます。

医療費控除の計算では、高額療養費は差し引きますが、傷病手当金は差し引きません。傷病手当金は医療費の補填ではなく、所得の補償だからです。確定申告の際に間違えやすい点なので注意してください。

まとめ|病院でお金が足りないときはまず窓口に相談する

払えない状況で最も避けたいのは、連絡を絶つことです。会計窓口、医事課、医療ソーシャルワーカー、社会福祉協議会、福祉事務所。相談先は段階ごとに用意されています。制度の申請は、病院にいる間のほうが進みやすいものです。退院後に落ち着いてから、では書類集めの手間が増えます。

今日できる行動は2つです。1つは、加入している健康保険の種類と、自分の所得区分を確認すること。もう1つは、マイナ保険証の利用登録が済んでいるかを確認することです。この2つが分かっていれば、次に病院で請求を受けたとき、窓口で払う金額の上限を自分で見積もれます。手元のスマートフォンで、マイナポータルの登録状況を今すぐ確認してください。

参考文献

  • 「高額療養費制度を利用される皆さまへ」-厚生労働省
  • 「高額療養費制度の見直しについて」-厚生労働省
  • 「マイナ保険証の利用で限度額を超える支払いが免除されます」-厚生労働省
  • 「無料低額診療事業について」-厚生労働省
  • 「生活福祉資金貸付制度」-厚生労働省/全国社会福祉協議会
  • 「生活保護制度(医療扶助)」-厚生労働省
  • 「傷病手当金」-全国健康保険協会(協会けんぽ)
  • 「一部負担金の減免・徴収猶予」-全国健康保険協会(協会けんぽ)/各市区町村国民健康保険
  • 「医療費を支払ったとき(医療費控除)」-国税庁
  • 「医療ソーシャルワーカー業務指針」-厚生労働省
  • 「医師法 第19条(応召義務)」-e-Gov法令検索
  • 「医療ソーシャルワーカーとは」-公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会